先頭打者弾を浴びてから20人連続アウト。山本由伸が見せた”本物の立て直し力”
最悪の入りから、静かな支配へ
数字が、言葉よりも雄弁に物語っている。
試合の一球目、あるいは数球目で本塁打(ホームラン)を浴びる——それはピッチャーにとって、心理的にこれ以上ないくらい最悪な入り方だ。スタジアムが沸き、相手ベンチが勢いづき、マウンドの上にいる投手はその熱気をただひとりで受け止めなければならない。ロサンゼルス・ドジャースの山本由伸が直面したのは、まさにそういう場面だった。
しかし、ここからが彼の話である。
先頭打者にホームランを打たれた直後、山本は崩れなかった。いや、崩れなかったどころか、その後に見せたピッチングは圧巻のひと言に尽きる。
20人連続でアウトを取るというのは、野球に馴染みのない方には少しピンとこないかもしれない。一試合に登場する打者がおよそ27人(3アウト×9イニング)であることを考えると、その数字がいかに非凡なものかが伝わるだろうか。最悪の立ち上がりのあとに、ほぼ一試合分に相当する打者を黙らせ続けたのである。
マウンド上の山本は、いつものように感情を大きく表に出すわけではない。淡々と、静かに、しかし確実に打者をねじ伏せていく。その佇まいがまた、数字に重みを加える。
「修正力」こそが、一流投手の証明
先頭打者への本塁打というのは、投手心理における”踏み絵”のようなものだと思っている。動揺して四球(ボール4つで打者を歩かせること)を連発するか、それとも切り替えて立て直せるか。そこに、そのピッチャーの本質が透けて見える。
山本由伸がMLB(メジャーリーグ)に渡ってから、彼の「修正力」は何度もクローズアップされてきた。日本時代のオリックスで積み上げた実績は折り紙つきだったが、異国のバッターに対応しながら自分のピッチングを進化させる過程は、決して平坦ではなかった。それでも今、彼はメジャーの舞台で「信頼できるエース」としての地位を着実に固めつつある。
被弾したのは結局その1球だけ。あとはもう、山本の時間だった。緩急(スピードの緩い球と速い球を使い分けること)を巧みに操り、コーナーを丁寧につく投球は、見ている者を引き込む芸術性すら感じさせる。相手打者からすれば、打てそうで打てない——そのもどかしさが、20という数字に詰まっている。
野球はメンタルのスポーツでもある、とよく言われる。肉体的なスペックだけでなく、悪い流れをどこで断ち切るか、自分自身をどう立て直すか。その能力こそが、長いシーズンを戦い抜く投手に求められる資質だ。山本はこの日、その問いに対して最も説得力のある形で答えを出してみせた。
ドジャースは大谷翔平という超弩級のスターを擁しながらも、山本由伸の存在がローテーション(先発投手の登板順)に与える安定感は計り知れない。次の登板でどんなピッチングを見せてくれるのか、今からもう楽しみで仕方がない。
出典: MLB.com
